急遽こちらのエントリを先にします。先ほどNHK杯のスペシャルエキシビションの第2部を見ました(そしてBSでやっていたほうの1部を録画しそこねて見られないという大失態。オンデマンドとかでやってるかな)。ブログにでも書こうと思ってちまちまとそれぞれの選手の演技の感想をメモっていたのですが、そんなことは最後の真央ちゃんのジュピターを見てどうでもよくなりました。(いや、それは言い過ぎですね。)

メモった細かい感想は省きます。東日本大震災復興を願うチャリティーということで、出場された方々はそれぞれの思いを込めて滑ったのでしょうけど、やっぱりキャンデロロはさすがだな、そして織田君はやっぱり上手いな、でも一番すごいのはプルシェンコですね(みんなプルシェンコにあこがれるというのなら、あの音楽にはまったキレっキレの体全体の機敏な動きをきちんとできるようにすべきですよね。落ち着いたテンポの曲ならば羽生君はプルシェンコを意識した表現ができるんだろうけど、どんな速さの曲だってプルさんはスケーティングを崩さずにできるし、そのために基礎的な練習や体作りを積み重ねてるんだなあとつくづく思う)。ロロさんもそうですけどこういう場で本気出せる、念入りな準備をしてオンリー&ベストの形で登場してくるプロはすごいと感嘆していました。

そして真央ちゃん。自分が現役に復帰しようと思うきっかけとなった東北の人々との出会いに感謝し応援するために、このエキシビションのためにジュピターをセルフプロデュースしたののこと。舞さんの話からすると、ローリーにも来てもらったのでしょうか。プログラムを作り直して、地元の小さなスケーターたちと共演し、少年コーラスのリベラにも来てもらって、考えた日本語の歌詞もつけて歌ってもらい……後半で、いつもトリプルアクセルを跳ぶときのあの軌道とポーズで真央ちゃんが入っていったときには、えっまさか、とあんぐり口をあけたけど、すぐに、「でもそうなんだ、この地だからこそ、真央ちゃんはトリプルアクセルに挑戦する姿を見せたいんだ」と思った瞬間、もう涙が出ちゃいましたよ。

東北の人々のために滑るならば、真央ちゃんにとってこれぐらいやるのが「ふつうのこと」なんだなと思ったわけです。そういう人っています。やると決めたら、どんな場であっても、自分ならではのこと、そして自分ができる最高のことをやろうと試みることが「当たり前」の人が。


 

というわけで、思い出したのが93年のマイケル・ジャクソンによるスーパーボウルのハーフタイムショーです。今でこそ、スーパーボウルのハーフタイムショーも豪華になりましたが、そのきっかけを作ったのがマイケル。どれだけすごいかというのをわかりやすく見ていただくために、まずニコ動のコメント付きのほうをリンク張ります。この動画を見たことがない方々は、とにかく見てみてください。期待を裏切ることなんてありません。それに、それ見ないと私が言いたいことわからないと思うので。

【ニコニコ動画】Michael Jackson – Super Bowl XXVII Halftime Show

動画に出ているコメントを見ての通り、まず、ハーフタイムショー出演のギャラはありません。そのための宿泊費ぐらいは経費として出る、そしてNFL側はマイケルのチャリティー活動に10万ドル寄付したらしいですけど、マイケルには報酬はありませんでした。つまり演出も自腹。この演出だけでも、きっと10万ドルじゃ収まらないですよね。そして、念を押しますが、アメフトのプロ全米一を決める決勝戦の真っ最中、前半終わった後のハーフタイムです。一般的にトイレタイムと呼ばれていたような時間帯でした。このあたりのことは

NFL JAPAN.COM|報酬0円でも快諾 M.ジャクソンがNFL界に残した功績

という記事に詳しいです。マイケルが最終的に引き受けた理由が確かに彼らしいので一部引用します。

そして、引き受けてもらうまでに合計3度断られたが、スーパーボウルが数多くの発展途上国を含む世界100カ国で放送されて、世界各地に駐留している軍関係者にもライブで観てもらえることがマイケルの心を動かし、「さすがに、僕もそこはコンサートツアーでは行けないからね」と語って、承諾に至ったという。チャリティー活動に最も熱心だったポップスターとして、ギネスブックにも記載されているジャクソン氏らしい出演動機であったといえる。
NFL JAPAN.COM|報酬0円でも快諾 M.ジャクソンがNFL界に残した功績

そういう動機だったからこそ「たかが」アメフトのハーフタイムショーでさえ、マイケルはちゃんと一つのショーとしてコンセプトを考え抜き、それに基づいた豊富なアイディアをもって演出を一切妥協することなく、最初から最後まで完成された究極のエンターテインメントを見せたわけです(音響上、そのほうがベストと判断すれば口パクにもします)。以来、ハーフタイムショーはずいぶん華やかになって、大物スターが出るようになり、最近ではマドンナやビヨンセも力の入ったショーをやっていたのを見た記憶がありますが、マイケルのこれを超えるインパクトあるパフォーマンスは出ていないのではないかと思います。

私がこのショーの動画を見たのはマイケル・ジャクソンが亡くなった直後にこの逸話が話題になったときだと思います。93年当時の放送は見ていませんでした。そして動画を見ながら、「スポーツの試合の余興なのにここまで自腹でやっちゃうなんてマイケルすごいよね」と連れに話しかけた時に返された言葉がこれでした。

「これぐらいやることはマイケルにとってふつうのことだったんだよ」

その後、マイケルの幻のツアーになってしまったTHIS IS IT!のリハーサルのドキュメンタリーが公開されました。その映画でもマイケルの「①一度やると引き受けたら採算度外視してでも③誰もやらないような、そして④自分がこれまでやってきた中でも最高のことをやるのが⑤《自分にとって》当たり前(⑥そして見てくれる人たちへの敬意)」という彼の妥協なき精神をこれでもかこれでもかと見せつけられました。

今日真央ちゃんのジュピターを見て、あらためて真央ちゃんはマイケルみたいだなって思いました。もともと真央ちゃんは採算度外視、つまり(採点の)損得度外視しても、自分が最高だと思う技を盛り込んだ演技を競技で挑戦してきたわけですしね。そして、作品として最高のものを見せるにはどうしたらいいかということにはかなり貪欲なのに、小賢しい計算にはそんなに興味がない。「最高なことをやればそんな細かく損得の計算する必要ないしどうでもいいことじゃない?」といういい意味でも(そして今時のフィギュアスケート競技ではもしかしたらむしろ悪いとみなされがちな意味でも)どこか無頓着なんですよね。いや、無頓着ではないのかもしれませんね。実際、解説者が言うには今季は計算もするようになったらしいし。でも、本来そういうことは性に合わないのだと思います。

とにかく、他人様に何かを見せる以上は、過去の自分と比べても最高のものを少なくとも試みる、それが自分にとって当たり前、そういう人って確かにいるんだなと今日のジュピターを見てつくづく実感しました。そういうことをたいそうなことだと思わず、ごく自然のこととしてやってしまう浅田真央だからこそ、彼女のことを尊敬し応援する人が多いのだと思います。でも真央ちゃんは「それが当たり前」と思ってるのだから、それがすごいことだなんて気づいていないのかもしれませんね。

ここでもう一度、YouTube版でマイケルのスーパーボウルハーフタイムショーを(最後がちょっと切れてるのが残念だけど)。町田君の第九や羽生君のバラードもまだまだかわいいレベルだと思えるほど長い長い静止状態もかっこいいですよね。

 

マイケルも「自分にとって当たり前」のことが「すごいことだ」と気がついていなかったから、もっとやらなきゃ、ちゃんとやらなきゃって突っ走り過ぎてしまいました。疲れていても無理をしていたのでしょうね。強力な薬にまで頼ってしまって命を落としてしまいました。しかも本心、もっといえば弱音を打ち明けられるような身内や友人にも恵まれていなかった。

でも、真央ちゃんには舞さんがいて本当によかったなと、今日のエキシビションの様子を見ていても、ラジオでのお話を聞いても、名古屋の番組の動画を見ても、そんなふうに思う次第です。