前回のエントリでとんでもない前振りになってしまいましたが、もともと私が書きたかったことはリプたんのことではなく、ましてや私の母との真央ちゃんの衣装についての確執のことのことではなく、佳菜子ちゃんのことです。

先般のジャンプの回転不足云々は横に置いておきますね。

納得がいかないんですよ。今シーズン、オペラ座の怪人を選んだ選手でわかりやすいところからいえば、羽生君、無良君、GG、そして佳菜子ちゃんですけど、このテーマを選ぶにあたって、おそらくその4人の中で一番思い入れがあったのは間違いなく佳菜子ちゃんだったと思うんです。そりゃほかの3名の方々だってこのミュージカルの曲は好きな部類だったとは思いますけどね。でも、佳菜子ちゃんが一番この曲をやりたいと思っていたはず。でなきゃ、SP&FS両方ともこのミュージカルから選ぶわけないし。それに怪人とクリスティーヌを演じ分けるっていっても、ものすごいリスキーな挑戦じゃないですか。同じテーマでSP/FSを演じるという最近の例は、デニスの「ジ・アーティスト」だと思いますが、一人の俳優の不遇からのカムバックを二つのプログラムで演じ分けるという試みだったはず。演じる対象は同じ人物。世界選手権の演技はすばらしかったけど、そもそもスケートの技術に基づいた表現力がすばらしかったという部分のほうが大きかったと思うんですよね。

でも、クリスティーヌと怪人を表現し分けるって、単なる技術だけで勝負するのって難しいと思いませんか? 力強くステップを踏む/可憐にステップを踏む、激しくつなぐ/やわらかくゆったりとつなぐ、差をつけるとしたらこれぐらいですよね。だって、実際問題としてジャンプを力強く跳んだり可憐に跳んだりなんてこと無理だし、そもそも回転が回りきっててきれいに見えるかだけが問われるわけだし、スピンだって結局のところどれだけたくさんきれいにまわっているかが問題なわけでしょう? どちらも結局回っているか回っていないかだけが問われているわけで、回り方の緩急や剛柔が問われているわけじゃない。加えて、その限られたステップとかつなぎの部分を傍から見て明らかに違いがわかるようにスケーティング勝負で滑り分けることのできる選手が、今シーズンの女子……男子も含めてもどれだけ存在するというのでしょう? おそらく手振りで……そして顔で差をつけるしかないじゃないですか。現実問題として。

日本の場合はフィギュアスケートを「親身になって」見るファンが多いですよね。そういう人たちって、その他大多数の一般人や、おそらく他の国のフィギュアスケート好きとか関係者と見方が違うんですよ。先日の私のリプたんの話のように、選手の演技を見るとき、その選手の過去の演技と照らし合わせて「すごくよくなった」あるいは「悪くなった」という視点で見ている。織田君は、業界人目線だけでなく、親身なファン目線でもフィギュアスケートを見ることができるからこそ、佳菜子ちゃんのNHK杯のSPの後泣いちゃったわけでしょう?

でもね、佳菜子ちゃんの成長を見守ってきた日本のファン以外は、たぶん違う見方をしているでしょうね。「《また》オペラ座の怪人か。軽い気持ちで選んだんだろう」などとね。ひどい話ですよ。「また」といわれるべき選手はむしろ佳菜子ちゃん以外の選手であるべきなのに。

もし佳菜子ちゃんがロシア人の選手でロシア人のコーチについているのなら、コーチは滑りやすさなんて度外視で衣装に凝ったと思います。クリスティーヌは思いっきり可憐な女性らしく。そして怪人のときはとにかく男に見えるように、パンツスタイルに見える衣装にさせていたはず。そして髪型もあきらかに違うようにさせたと思います。レオノワのSPの評価ががぜんFSよりも高いのは、チャップリンのまねや雰囲気を似せるのがうまいだけじゃなくて、「あらゆる手段を使って」チャップリンになりきろうとしているのがわかるからでしょう。衣装にその本気が現れているとみなされている。もし単なるドレススタイルだったら、同じことをやったとしても点数は伸びていないでしょう。だって、所詮、審判なんて表面しか見ないんだもの。明らかにわかりやすくないとあの人たち評価できないのだから。

佳菜子ちゃんが評価の逆転を狙いたいのならば、四大陸はともかく世界選手権では一か八かで衣装変えた方がいいと思います。それこそ髪の毛だって切って、クリスティーヌのときはラジ子や理華ちゃんもびっくりの髪飾りつけて、怪人の時はかちかちに固めて。短くしてしまうとさすがにジャンプ、スピンに影響があって無理というのなら、怪人の時はジェイソン・ブラウンみたいなポニテにして白いメッシュいれるとか。ともかく見るからに「本気で男女、美醜、老若を演じ分ける」という気概を見せないと。怪人の時はパンツっぽい衣装にするだけで、たぶん審判は「おっ!(本気だな)」と思うはず。それに回転不足の評価はそう簡単に覆らないのではないかなあ。そこで消耗してもしょうがないですよ。

スケートの評価が衣装で変わるなんていうのは確かに本末転倒で、そういう考え方は本来好きません。だけど、衣装の美しさに頼らなくてもスケートだけで説得力を持たせようするならば、真央ちゃんぐらいの技術とカリスマがないと現実的に厳しい。すごくきつい言い方ですけどね。

「コフトゥンには華がないので、SP/FSで5つの4回転を跳ばせる」とか言ってたのは昨シーズンのタラソワ先生でしたっけ? あんなチャーミングな子なのに、ひでえ言い様だなと思ったんですけど、皇帝と争わなきゃいけない以上、しょうがない。皇帝にひるむことなく本気でコフトゥンに五輪に行かせたかったんだと思います。そういう意味でロシア人のシビアなものの見方は筋が通っています。ロシア人選手の衣装って、なんでそうなるの?と思うような変な衣装だったとしても、何かを主張しているんだなということ自体はわかるじゃないですか。葉巻工場でキャットファイトしたあとでしたっけ? そんな衣装でも、操り人形のひもを意識した衣装でも、本気なんですよ。それに、たとえばシンドラーのリストの衣装が汚れたように見える赤い生地じゃなかったら、評価は高くなかったと思います。

審判は「審判が好きなタイプの選手じゃない限り」親身になってくれません。で、佳菜子ちゃんはどうやら「審判が好きなタイプ」ではない……。結局、審判って私の母のように表面的なものしか興味がないし、昨シーズンと比べてこんなに柔らかさが演じられるようになったとか、そこまで気がついていないと思うんですよね。だからこそ、くやしいけど佳菜子ちゃんにはリベンジを果たしてほしい。

とりあえず、スケ連は衣装代の補助を出すべきだと思います。強化費に含まれているという扱いなんでしょうか、その辺よくわかりませんが。袖の下に使うわけじゃないんだから、金で解決できちゃう部分は、ちゃんと解決しちゃった方がいいと思います。