フィギュアスケートファンの世界ではクリスマスオンアイスのモロゾフ親子コラボやだいまおコラボでほほえましくなっている中、去年の夏のThe Skating Lessonによるアダム・リッポンのインタビューをやっと見ました。今更なんですけどね。

これまでついてきたコーチ(モロゾフ、オーサー、ダンジェン&有香さん、アルトゥニアン)について主に話しているようです。このレベルになると私の耳ではおそらく6~7割掴めればいいほうで、正確に聞き取れていなさそうな感じですが、理解した範囲では非常に興味深い内容です。モロゾフについて語っている箇所は熊子さんのフィギュアスケート分析ノートこの記事に詳しいです。何はともあれ、私にとって結構新鮮だったのはオーサーに習っていた時のこと。

アダムが言うには、世界一をとっているキミーも、安藤美姫も、キム・ヨナもトレーニングメイトだったわけで、比較すると興味深いものがあるそうなんですね。当然、バンクーバー五輪前のキムの様子がどうだったか聞かれるわけですけど(24:10あたりから)、どうもアダムは、キムが意志が強くて毎日決まったことをものすごく練習していたということを強調した上で、彼女は何があっても動じることなくすべてのピークを本番にもってくるのがうまかった、と言っているようなのです。確かにそうでしょう。オリンピックでは転倒や抜けはなかったんですよね? それに実際彼女の下馬評が高いのはスケーティングそのものの美しさではなくて、その本番で大崩れしないという人間離れした度胸とかキャラクターってところはあるでしょうし。

でも私が一番驚いたのは「正直言うと、練習中、僕はフリープログラムを彼女が完全にクリーンに滑ったのを一度も見たことがなかった」と言っていることなのです。キムのプログラムは絶対に確実な難度のエレメンツしかしか入れず余計なことはせず、彼女が10回跳んだら10回着地できる得意なものしか入れていないがゆえに練習中でも本番と同じようにできていたのだろうと、私は勝手にイメージしていたので、この発言はかなり衝撃でした。悪意を込めて言いますけど、いわゆるばかの一つ覚えみたいに毎日完成版をリピートできていたから本番でも失敗しなかったんだろう、ぐらいに思っていたんですよ。でもアダムは「一度もクリーンに滑ったことを見たことがなかった」って言っている(ここは聞き間違っていないと思うんですけどね)

でその後に、(私は意味を逆に取り違えているかもしれないのですが)「オリンピックも近づいてきたから『練習の調子はどう?』って聞くと『今日はフリーを練習でクリーンに滑ることができたわ(まったく動じていないようなそぶりをまねしている?)』と答えるから、『ああ、そうだろうね、そりゃそうだ(「ほんとかよ?(でもここで否定するのもまずいしなあ)」って表情なのでしょうか?)』と(言葉を合わせてた)」みたいなことを言っているようなんですよね。この辺どうなんでしょう?

もちろんキムが練習しているところに必ずアダムがいたわけではないので、なんとも言えませんが。

で、「唯一彼女がプレッシャーを感じているように見えたのが、オリンピック後の世界選手権の前だった」と(26:33あたりから)。彼女の様子を見るからに燃え尽きていて、アダム自身世界選手権には出るべきじゃないと思ったそうなのですが、「その年韓国での四大陸を棄権しているので、出ざるを得ないようだった」というようなことを言っているようです。実際問題としてトリノワールドにキムがどうしても出場しなきゃいけない縛りがあったんですかね? あるとしたらスポンサーの関係なのでしょうか? 来季の出場権? わかるようなわからないような気がしますが、確かにトリノワールドのキムの出来は燦々たるものでした。まあ、本人比で出来が悪くても評価は高い選手なので準優勝という結果でしたが、とにかくあの大会でのキムの投げやり感に私はあきれたものです。仮に来季の出場権という問題があるにしても、こんなにスケートやりたくなさそうな彼女が来季なら出たいと思えるようになるとは思えなかった。

アダムは続けて「決してほかの人たちに対して傲慢ではなかったけど、その頃(バンクーバー後ワールド前)ときよりも前までは、自分は優れていると自覚があったと思う」と言っているようです。

いろいろ考えさせられます。本当に自分が優れているという自覚が自分の能力をより所にしているものであるなら、なぜ五輪後ワールド前はアダムがいうところのbreakdown(ボロボロ)状態にまで自信たっぷり状態からいきなり落ちてしまうのかちょっと理解しがたいからです。いずれにしても、オリンピックまでのキムに対するオーサーのメンタルトレーニングはかなりのものだったという印象を受けます。熱心にやっていたという練習で不出来でも自信を持たせる方向に考え方を向けるのって大した手腕だと思うもの。

その一方で練習のできが自信の裏付けという考え方って、競技でいい成績をとるには実は向かない考え方なのだろうかと、さらに考えさせられてしまうのです。

今でもキムと連絡をとりあってる?という質問には「いや、とっていない。でもまた会うことがあったらフレンドリーでいられると思うよ」とのこと。

38:34あたりから、キムとオーサーの決裂がアダム自身のトレーニングにどういう影響を与えたかという話になっています。40:17ぐらいから本音に近い話をしているようです。一心同体であるかのように競技生活を続けてきた彼らが、ああいうことがあってからは同じリンクで鉢合わせになると(キムはしばらくそれでも私だってここで滑る権利があるといわんばかりに滑りに来ていました)いさかいが起こるので、自分としては当惑した、といった話なんでしょうね。離婚する両親の間で板挟みになった子どものような気分にたとえられていて……ずいぶんアダムは遠慮がちで、どちらに対しても気を遣って話そうとしていると見受けられるのですが、それでもなんだか状況が目に浮かぶようです。相当険悪だったのでしょう。

その後に出てくる有香さんについての彼のたとえ方も面白いですし、フィギュアスケート界有数のコーチたちについて関心がある方々は全編を通じて聞いてみるとよいと思います。私自身、英語がわかればともどかしい思いでいます。