ソチ五輪での真央ちゃんを見て、それはもう多くの人たちがその採点競技を越えた素晴らしさを語り尽くしているので、私はちょっと違うアプローチで。

私はずっとオリンピックが開幕するまで、真央ちゃんが目指す演技がショートプログラム、フリースケーティングを通じてできれば、やっていることが女子の中で最も高度である以上、まちがいなく優勝だという理屈で考えていました。アメリカやフランスでの報道で浅田真央が優勝候補には挙げられていなくてもです。

それでも正直言って、アメリカで「浅田真央は(今年3Aを成功していないのだから)オリンピックでは3Aをプログラムに入れないほうがいい。無理だ」という視点をベースにした記事がオリンピック前にこんなに配信されるとは思いませんでした。結局、グランプリファイナルのノクターンのあのトリプルアクセルも回転不足という判定を受けて、各国メディアに「見かけがきれいでも浅田の3Aは回転不足」という認識ができてしまったのでしょう。

ですから腹立たしいと思いつつも、私は自分の心のどこかで「3Aに固執するのは自殺行為」というとらえ方をされても当然だと思っていました。あれが回転不足なら、もう誰の目でも回転が足りてるかどうかなんて判断できないレベルですもの。

ふつうならあきらめますよね。本人があきらめなくても周りがあきらめさせるでしょう。「もう何をやってもジャッジには認定されないのだから、確実に認定される2Aにしよう」と。

だいたい女子フィギュアスケートに関しては、これまで採点に一貫性も論理性もあったためしがありません。今シーズンの真央ちゃんの成績だってそうです。シーズン当初は3Aが両足着氷になっても、演技構成点の高さで優勝してきました。でも、その演技構成点が上がったのは、3Aの代わりに2Aを入れても、時間を掛けてそれ以外のジャンプ、ステップ、スピン、スパイラルなど様々な要素の質を、毎年こつこつと試合に出続けることで評価を上げていった、真央ちゃんの努力の積み重ねの結果です。信夫先生の「一つぐらい転倒しても、総合力で勝てる選手になってほしい、そういう選手になれる」という考えの通りでもありました。

実際、前年のグランプリシリーズのシーズンにそうした結果が既に出ていました。理想の形ではなくても、完璧な形でなくても、演技構成点で優勝する。真央ちゃんにとっては腑に落ちなくて不満でも、そういう勝ち方がある。実際、バンクーバー時代から見れば、明らかによくなっているのですから真央ちゃんには渋めのジャッジだって少しずつは評価を上げていったわけです。今から考えれば「他の誰も跳べない3Aを諦めるんならGOEとPCSはそれなりの評価はしてやるよ」というISU側のメッセージでもあったかもしれません。

でも……こういったベテランが有利になる出来映え点や演技構成点のつきかたって、よく考えてみたら特に若手を抱える各国のスケート連盟にとって不安材料になりますよね。

ソチ五輪には、前の五輪以来A級の試合に3回しか出てこなかった人が来るんですよ。基礎点は低いプログラムなのに、出来映え点や演技構成点が適当な出来でも際だって高くつけてもらえる人が出てくる予定なのですから。

今シーズンのグランプリファイナルでは真央ちゃんに限らず女子選手誰に対しても加点が渋めになりました。今から考えると、各国のスケート連盟は、それを見てそれまで既に疑っていた女子シングルのジャッジの基準に完全に見切りをつけたのではないかと思います。もうあんな適当なジャッジングなんて信用しない。

こうしてその後、各国の対応があからさまになったように私には思えました。日本も含めて各国内選手権で、この4年間、真央ちゃんほどの技術の向上を見せなかった人たちにも、それどころかこの2年ぐらいでやっとシニアに参戦してきた選手たちにも、国内のジャッジは演技構成点をてんこ盛りにしました。大陸別の大会でもそうです。フィギュアスケート分析ノートのkumakoさんがその辺りのことをすでにご指摘なさっていますが、そうやって真央ちゃんの地道な努力をあっという間にインフレによってリセットしてしまったわけです。

それは不運にも真央ちゃんが腰を痛めてしまい、ソチ入りまで思うような練習ができなくなった時期に重なります。自分の努力の賜物の一つをあっけなくなかったものにされたら、不安を抱えてしまって当然だと私は思います。

選手たちも4年に一度ですもの、それなりの手を打ってきますよ。自分の今シーズンのプログラムではジャッジの点が渋いと判断して、以前評判が良かったプログラムやもっとわかりやすいものに替えた選手。コンビネーションのセカンドジャンプをトリプルループにすると相変わらずジャッジは認定しないからシーズン後半でトゥループにした選手。そもそもセカンドをトリプルループにすること自体、最初からプログラムに入れない選手。みんなジャッジが点を付けようとしないものをリファインしたってどうせ点はつけてもらえない、とジャッジを信用していないんですよ。だからそういう策に出る。それは責められませんよね。

でも真央ちゃんは「採点は試合ごとに違うからあまり気にしないようにしている」と言いながらも「それでも完璧な形にすればジャッジは最後には点数をつけてくれる」という絶対評価を信じたただ1人の選手だったと思います。

でなきゃ、

・どんなにきれいに回ったって回転不足を取られるであろうトリプルアクセル

・トリプルフリップとの3回転3回転コンビネーションには、同じくどんなに回りきっていても回転不足を取られるであろうトリプルループ

・どんなに矯正したってエッジが違うとミソ付けられるトリプルルッツ、

・トリプルアクセルとダブルトゥループのコンビネーションよりも一般的に評価が高くなるなんてそもそもおかしいけど私だってやればできるわよと言わんばかりに取り入れたダブルアクセルとトリプルトゥループ

・どういうわけか昔から苦手意識のあるトリプルサルコウ

・しんどくなる後半にトリプルフリップから始まる3連続ジャンプを入れたあげく、そのコンビネーションは自分と佳菜子ちゃん以外女子は誰もやろうとしないダブルループ2連発。

・得意なジャンプなのに、それをわざわざ足にくる最後に、一番不利な条件で飛ぶトリプルループ

……どうしてジャンプだけでもこんな自分に厳しい、リスクばっかり負ってる構成にするのかって理解できないじゃないですか。

ソチで真央ちゃんはそのプログラムをやりきりました。転倒することなく、これまで何かにつけていちゃもんのように両足ついたと言われてきたぎりぎりの着氷もありませんでした。最後まで真央ちゃんは絶対評価というものを信じてこのプログラムをやってのけたんです。

で、そうした真央ちゃんの信頼に対する審判たちの答えは?

自己ベストとはいえ、オリンピックに出た選手たちの中でフリーはトータルで3番目の出来だと評価されました。出来映え点だって演技構成点だって、彼女よりも高くつけられた選手は何人もいました。

審判たちはみな自分自身を恥じるべきです。